■ 「恋と恋するショートストーリー」 奈々緒編 「女の子だって、憶えちゃう」 ■

 キーンコーンカーンコーン♪
和 哉
「売店で買ったショコラ紅茶、味微妙だったなぁ~、せっかくの優雅な昼休み気分、ブチ壊しだって」
和 哉
「あ~あ、午後の授業かったりぃなぁ……んっ?」
萌 葱
「んしょ、よいしょ……はぁ~、重いよぉ……」
和 哉
「あれは……屋敷さん。ああ、あんな大きな荷物抱えちゃって、あれじゃまるで荷物が歩いているみたいじゃないか」
萌 葱
「んしょ、んしょ……ふぅ~」
和 哉
「ダメだ、もう見てられない」
萌 葱
「んしょ、よいしょ……あれっ、荷物が消えちゃった」
和 哉
「消えないって、俺だよ」
萌 葱
「あっ……お兄ちゃん」
和 哉
「これ、次の授業で使う世界史の資料だろ?」
萌 葱
「はいっ、もえぎ、今日は日直なのですっ」
和 哉
「こんな大荷物、男子に頼めば……あっ、屋敷さんは男性恐怖症だったか」
萌 葱
「はい。お兄ちゃんのおかげで、大分良くなったのですが……今日は男子の日直、嶋くんだから」
和 哉
「確かに鷹哉じゃ頼みづらいよな。真面目系女子の敵だし。よし、じゃあ後は俺に任せろ」
萌 葱
「わぁ~い、お兄ちゃん、ありがとうございます、ペコリ」
和 哉
「いい……いいな、今のおじぎ」
萌 葱
「はい?」
和 哉
「いや、可愛いじゃないか! こんな小さい子に大荷物持たせちゃダメだろう、男子達よ。どうして助けてあげないんだ?」
萌 葱
「むぅぅ……お兄ちゃん、もえぎは子供じゃないですっ」
和 哉
「あっ、そうだったな。クラスメイトだったよな、はい、はい」
萌 葱
「何か言い方に差別を感じます。そうやって、すぐからかうんですから」
和 哉
「からかってないって」
萌 葱
「……ほんと?」
和 哉
「うん、ただ遊んでいるだけだし」
萌 葱
「やっぱりお兄ちゃん、ヒドイですっ」
和 哉
「ハハハッ、悪いわるい」
萌 葱
「でも……」
和 哉
「んっ?」
萌 葱
「荷物持ってくれることには、大感謝です♡」
和 哉
「そうか、そうか。やっぱり屋敷さんは、素直で良い子だな」
萌 葱
「あぁん、頭なでなで、気持ちいい……って、そうじゃなくて」
萌 葱
「こうやって頭なでるなんて、やっぱり完全に子供扱いですっ」
和 哉
「えっ、これイヤだったのか、ゴメンゴメン。もう止めるよ」
萌 葱
「あっ……やめちゃう、の?」
和 哉
「屋敷さんが嫌がる事はやらないよ」
萌 葱
「……別に、イヤじゃ……ブツブツ」
和 哉
「そんな明らかにがっかりした顔されたら、止められないって」
萌 葱
「ガッカリなんて、していないですけど……」
和 哉
「してるつーの! ああもう、誰が見ていようが、撫で撫でしまくってやるからな」
 なでなで、なでなでなでっ
萌 葱
「わわ、お兄ちゃん、落ち着いてくださいっ」
和 哉
「ダメだ、俺はここに撫で撫で宣言するぞ」
萌 葱
「だから、子供扱いは……ダメ、ですぅ……ふにゅ」
和 哉
「うんうん、可愛い♡」
萌 葱
「もう、お兄ちゃんったら♡」
和 哉
「幸せそうに目を細めちゃって、気持ちいいんだろう?」
萌 葱
「えへへ……気持ちいい、です」
和 哉
「屋敷さんを見てると、ついついこういう事したくなるんだよな~」
萌 葱
「子供扱いは、イヤですけど……お兄ちゃんになら、いいかも」
和 哉
「光栄だね。あっ、でも早く行かないと、授業に間に合わなくなるよ」
萌 葱
「そうでした! じゃあ急ぎましょう、お兄ちゃん」
和 哉
「ああ、行くか……んっ、なんだ、このグイグイ引っ張られる感は」
萌 葱
「どうかしましたか、お兄ちゃん?」
和 哉
「いや、別に……なぁんだ、屋敷さんが俺の上着の端をつまんでいたのか」
萌 葱
「へへへっ、そうです」
和 哉
「ああ、そんな嬉しそうな笑顔見せられたら、何も言えないな」
萌 葱
「お兄ちゃん、行きましょう」
和 哉
「おうっ、その手離さないでしっかりついてくるんだぞ」
萌 葱
「は~い♡」
 トコトコ、トコ♪
和 哉
「ああっ、トコトコ俺の後を付いてくる屋敷さん、略してトコトコ屋敷さん、いい♡ 『ねんどろいと』や『フィグモ』で販売されたら絶対買うよな!」
萌 葱
「お兄ちゃん、へへへっ♪ すりすりすり~」
和 哉
「わわっ、なぜ擦り寄ってくる」
萌 葱
「だって、すりすりしたいの……だめ?」
和 哉
「ううっ、近い近い、近すぎるぅ」
萌 葱
「……お兄ちゃん♡」
和 哉
「ひゃあ、屋敷さんの髪、くすぐったい……でも、いい香り」
萌 葱
「お兄ちゃん、心臓がドキドキしてますよ、もしかして荷物、重いんですか」
和 哉
「いやそうじゃなくて、髪が……」
萌 葱
「髪が、どうかしましたか?」
和 哉
「うううっ、落ち着け俺! そうだよ、これはあくまで仔猫が飼い主に甘えてるようなモンだって」
萌 葱
「お兄ちゃん、何ブツブツ言ってるんですか?」
和 哉
「勘違いすんな、俺! これは愛でも恋でもなくて、ただの……えっ!?」
萌 葱
「変なお兄ちゃん。えいっ、もっとすりすりしちゃいます」
和 哉
「わわわぁ~」
萌 葱
「もえぎ、お兄ちゃんといると、本当に楽しいです♡」
和 哉
「そ、そっか、良かったな……はぁ、ハァ、俺はもうドキドキ、ヒヤヒヤしっぱなしだって!!」


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