■ 「恋と恋するショートストーリー」 奈々緒編 「女の子だって、憶えちゃう」 ■

和 哉
「一征達、遅いなぁ。今日の放課後、ここで集合って言ったのアイツらだろう」
和 哉
「くそっ、ケータイにも連絡ナシって、どういう事だよ」
和 哉
「この場所、最悪なんだけど」
 ザワザワザワ、ザワッ
璃 歌
「みなさん、お誘いありがとうございますぅ」
和 哉
「原因は……あれだよな、森永さん」
和 哉
「チヤホヤする取り巻きに、それを遠巻きに見てる野郎共、この場所にどんだけ人が集まってるんだよ」
璃 歌
「ゴメンなさい……私、今日お仕事の打ち合わせがあって、どうしても抜けられないんです」
和 哉
「仕事か……現役アイドルは大変なんだな」
璃 歌
「その代わり、明日のカラオケは参加しますよぉ。すっごく楽しみ♪」
和 哉
「カラオケねぇ……まっ、俺には関係ないけどさ」
璃 歌
「……あらっ、そこにいるのは……」
和 哉
「ゲッ、目が合っちまった……なんでこっちに来るんだよ、取り巻きごと大移動じゃないか!」
璃 歌
「大崎くんも、一緒にどうかしら? 明日、みんなでカラオケに行くんだけど」
和 哉
「おっ、俺? いいよ、別に。明日は、その……ちょっと用事があるし」
璃 歌
「ええっ、そうなんですか……ああ、残念ですね」
 ザワザワザワザワ、ザワザワ……
和 哉
「なんだよ、こいつら……森永さんの困った微笑みひとつで大騒ぎだ」
和 哉
「アイドル萌えってやつなのか?」
璃 歌
「では私、ここで迎えの車を待って、現場に向かいますね。みなさん、また明日」
和 哉
「ふぅん、ちゃんと皆いう事聞いて帰るんだな、ストーカーみたいなのはいないんだ」
璃 歌
「ええ、みなさんマナーのいい人ばかりですから」
璃 歌
「大崎くんはまだ、帰らないのかしら?」
和 哉
「俺はここで、友達待ってるから」
璃 歌
「じゃあ、私も一緒に♪」
和 哉
「えっ?」
璃 歌
「………………」
和 哉
「………………」
璃 歌
「どうやらみなさん、いなくなったようですね」
和 哉
「そ、そうだな……」
璃 歌
「さぁて………………じゃあ、理由を教えてもらいましょうか」
和 哉
「理由? 何を?」
璃 歌
「決まってるでしょ! この大アイドルの誘いを断るなんて、普通ありえなくない!?」
和 哉
「そういうものなの? アイドルって、よくわからなくてさ」
璃 歌
「何が予定よ、何が用事よ! アイドルとカラオケできるなら、誰だってキャンセルわよ。そんな常識も持ってないのかしら、大崎くんって」
和 哉
「わ、悪かったな……それにしても今、いつもの天使ボイスじゃなくなってるけど」
璃 歌
「いいのよ、あれは営業用! なんでアンタ相手に、天使ボイス聞かせないといけないワケ?」
和 哉
「………………」
璃 歌
「黙らないで、何か言いなさいよ。まったく……アンタだけよ、『アイドル』で『美少女』である、この私になびかないのは」
和 哉
「そう言われてもなぁ……」
璃 歌
「おかしいわよ、絶対こんなのおかしいわ!」
和 哉
「そんな恨みがましく見られると、冷や汗が出てくる」
璃 歌
「うるさい! こんな可愛いアイドルが側にいるのよ、流していいのは歓喜の涙くらいなものよ」
和 哉
「そういうもんなんだ、一般的には」
璃 歌
「……はっ、もしかして、大崎くんって」
和 哉
「俺が……何?」
璃 歌
「アイドルに興味ないなんて、アンタ………………ホモ!?」
和 哉
「はぁぁぁ?」
璃 歌
「それともロリ!? 熟女スキー!?」
和 哉
「その誤解を生むような発言、止めろよな。どこかで誰かに聞かれたら、どうするんだよ」
璃 歌
「じゃあ……あぁっ、まさかまさかのデブ専? それじゃ細身でナイスバディの私には興味ないわよね~」
和 哉
「どうしてそうなる、勝手に決めつけるなって」
璃 歌
「はぁぁ、とんだド変態ねぇ、大崎くんって」
和 哉
「ったく、言いたい放題にも程があるぞ」
璃 歌
「この私に興味がないなんて、それしか考えられないわよ」
和 哉
「なんかさ……俺、もう帰ってもいい?」
璃 歌
「ダメよ、私の迎えが来るまで、徹底的に話し合うから」
和 哉
「なんでそうなるかなぁ……妙に生き生きしちゃってさ」
璃 歌
「えっ、そう……かしら?」
和 哉
「こっちの森永さんの方が、付き合いやすいよ、俺はさ」
璃 歌
「それって……ほ、惚れてる、とか、言うんじゃないでしょうね?」
和 哉
「アイドルって、やっぱりよくわからないけどさ、ずっとこういう森永さんじゃダメなの?」
璃 歌
「………………」
和 哉
「なんか怒ってる? もしかして、余計なこと言った?」
璃 歌
「そ、そうよ、まったく……全然分からないわ、大崎くんって。アイドルに興味を示さない男子が、こんなド田舎にいるなんて」
和 哉
「悪かったって。じゃあ俺、そろそろ……」
璃 歌
「だから、待ちなさいよ! まだ帰って良いなんて言ってないわ、私は」
和 哉
「このままだとホント、解放してくれなさそうだな……(とりあえず、森永さんに興味がある風に装っておくか)」
璃 歌
「何をブツブツ言ってるのよ、言いたいコトがあるなら、男らしく言いなさいよ」
和 哉
「じゃあ……あのさ、森永さん」
璃 歌
「何かしら、大崎くん」
和 哉
「良かったら、ケータイの番号……交換してくれない?」
璃 歌
「なっ、何ですってぇぇっ!?」
和 哉
「いつも取り巻きがいるからさ、なかなかこうして話せる機会もないし……ねっ、この機会にどう?」
璃 歌
「一般人が、トップアイドルのケー番が知りたいなんて……それ、正気で言っているの!?」
和 哉
「一般人じゃダメなの? だったら、別にいいけど……」
璃 歌
「私の声を聞きながら、ナニをしごくつもりなんでしょ!」
和 哉
「……違うって」
璃 歌
「または私の声を録音して、それをアレの最中に聞き返すとか!?」
和 哉
「ああ……俺もう、泣きたくなってきた」
璃 歌
「それとも、それとも……もっと破廉恥なこと、する気なんでしょ!!」
和 哉
「頼むから、もう帰らせてくれーーーっ!!」


back | top | next